個人事業主になるには~事業計画から確定申告まで~【試し読み】

1つの会社に一生勤めあげることが難しくなるとともに、『個』の力が大きくなりつつある現在、個人は生き抜くためにこれまでの最適解とは異なる生き方を迫られています。そんな過渡期を生き抜く1つの選択肢として副業での起業を考えている方も少なくないのではないでしょうか。

この記事は個人事業主について知りたい、やってみたいプチ事業がある、勢いで始めちゃったけど手続きとか大丈夫か心配、という方に向けて、個人事業主の開業から事業計画・展開、確定申告までをまとめたものです。

目次

はじめに

本著は個人事業主(フリーランス)として仕事をすることに興味がある、副業でお小遣い程度でもいいので自分の好きなことを仕事にしてみたいけど何をどうしたらいいのかわからないといった方から、とりあえず見切り発車で始めてしまったというせっかちさん、始めてみたけど収入にならなくて困っている方、逆に収入が発生してしまって手続きとか税務とかこのままで大丈夫なんだろうかという方に向けて、とりあえずこれくらい押さえておくとなんとかなるよ、といった内容をまとめたものです。

個人事業主として起業するというと大きなリスクを思い浮かべ、挑戦をためらっている方も少なくないでしょう。実際、会社を辞めて自分の事業を立ち上げるとなると途端に収入がゼロになったり、事業内容によっては毎月赤字を垂れ流し続け、あっという間に貯金が尽きてしまうということも十分に考えられます。

いくら終身雇用や年功序列が崩れ始め、会社に雇用してもらうことによる安心感が揺らいでいるとはいえ、個人事業主一本で生計を立てようとすることがハイリスクなことに変わりはありません。

しかし、あなたが挑戦してみたいことは本当に会社を辞めなければできないことなのでしょうか。インターネットが発達し、様々なサービスが拡充された今、私の周りでも会社に勤めながらプチ事業を立ち上げている方はちらほら見かけます。

彼らは自分でブログを作り広告収入を得たり、独学でプログラミングを学んでWebサービスを立ち上げたり、Wordで文章を作って電子書籍として販売したりして収益を上げています。最近流行りのYouTuberだって収益が発生していれば立派な個人事業です。

あなたのやりたいことが巨大な綿織物工場を作るとか、新たな自動車メーカーを立ち上げるとか、フランスへ移り住んで日本料理店を立ち上げるとか、民間ロケット開発などであれば会社に勤めながら挑戦するのは難しいかもしれません。

しかし前述したような小さな事業形態から始めれば会社に勤めながらでも最初の一歩を踏み出すことはできるのではないでしょうか。この本がちょっとした勇気を振り絞って最初の一歩を踏み出した、未来のあなたのお役に立てることを心より願っています。

第1章 個人事業主とはなにか

この章では『個人事業主』とはなにか、どういった人、事業形態を指すのかについて解説します。

1.1 個人事業主の定義

『個人事業主』というと堅苦しく聞こえますが、税務署へ行って屋号や開業日、事業内容などを記載した『開業届け』を提出した個人を指します。一般に自営業者と呼ばれる方の書類上の堅苦しい呼び名が個人事業主です。

▲実際の開業・廃業等届出書
開業届は国税庁のホームページ([手続名]個人事業の開業届出・廃業届出等手続)からダウンロードすることができます。

もう少し正確にいうと、あくまで個人で事業を営んでいる者が個人事業主であり、株式会社など法人企業の経営者や会社役員、会社と雇用契約を結んでいるサラリーマンなどは個人事業主に該当しない一方、雇用でない契約によって他社の事業に従属する請負や代理店などはそれが法人でなければ個人事業主です。

サラリーマンでも勤め先とは別に、個人で開業届けを提出し事業を行っている者はサラリーマンであると同時に個人事業主でもあるといえます。

余談ではありますが、このように個人事業主になることは非常に簡単で、しかも一般には聞きなれない言葉のため法人企業の経営者と誤認されることもあり、わざと誤認を誘ったイメージ戦略に使われることも少なくありません。

個人事業主として活動していくうえで取引先として個人事業主と関わるケースは少なくないため、名刺などで相手の肩書きが個人事業主のみだった場合は具体的な事業内容を確認しておくのが無難です。

1.2 個人事業主の例

個人事業主という言葉は聞きなれないため何か特別なことのように思えてしまうかもしれませんが案外身近なものです。お肉屋さんや八百屋さん、焼肉屋さん、米農家、漁師、大工さん、美容師さん、小説家、漫画家、ミュージシャンやタレントなども個人として事業を行っている限りは全て個人事業主です。

子供が憧れるような歌手、俳優、アナウンサー、スポーツ選手、お笑い芸人、画家、漫画家なども法人会社化せず、法人企業と『雇用契約』を結んでいない限りは個人事業主に区分されます。

実際こういった職種で雇用契約を結んでいないケースは少なくありません。テレビでお笑い芸人やタレントが『売れない頃は月給3万円で~』と口にしているのはこのためです。

彼らが『雇用契約』を結んでいるのではなく、個人事業主として仕事を請け負っている場合、最低賃金や労働時間など被雇用者のための法律が適用されません。(もちろん彼らの全てが個人事業主というわけではなく、被雇用者として勤めている方も存在します。)

1.3 個人事業の歴史

複合商業施設やチェーン店が数多く立ち並ぶ現代ではイメージしづらいかもしれませんが、前述のように個人事業は我々の日常から非日常にまでありふれています。

歴史を振り返れば現代のようにサラリーマンが大多数を占める時期は極僅かで、これは産業革命以降の工業化の影響が大勢を占めています。

厚生労働省のレポート『働く場(職場)の変化 』によると就業者に占める雇用者の割合は、第二次世界大戦の終結から間もない1953年の段階ですら42.4%となっており、その後急激に労働者のサラリーマン化が進んできたことがわかります。


▲画像は厚生労働省 『働く場(職場)の変化 』より

これ以前の昭和前期や明治、江戸時代ともなれば、現代のように多くの人間がサラリーマンとして勤めていたわけではないことは語るまでもないでしょう。もともと日本は農民が大多数で、サラリー(給与)を受け取っていたのは武士くらいなのですから。

かなりあさっての方向に脱線してしまいましたが結局何が言いたいかというと、個人事業とは多くの人がイメージするほど特別な「なにか」ではないということ、そして現代は大多数がサラリーマンとなるためそれが『普通』ですが、『普通』は時代と共に変わる可能性がある、ということです。

ここ数百年(たかが数百年)はサラリーマンになることが生活を守り人生を豊かにするための無難な選択肢だったかもしれません。しかし今後の情報化社会でもそれが続くという保証はどこにもありません。

私にはむしろ、個人がコンテンツを生み出したり販売するハードルが下がり、小資本での事業立ち上げが簡易化され続けている現在、会社から給料を受け取りながらも個人事業主として生き抜く知識や技術を身に着けていくことこそ、今後最も生存率の高い戦略ではないかと思えるのです。

第2章 マーケティング

マーケティングの基礎について解説します。個人事業主としてプチ事業から始めるうえで、最初からそこまで難しいことを知る必要はないと私は考えていますが、ざっくり大枠くらいは知っておくと市場選定や商品制作に悩んだ時の指針になります。

2.1 マーケティングとは

『マーケティング』とは商品やサービスが効率的に売れるよう、市場の需要と供給を調査し、製造、販売、宣伝などを行う企業活動の総称です。経営学やミクロ経済学に興味のある方には馴染みのある言葉かと思います。
私もマーケティングの本を何冊か読んだり、マーケティング理論について調べたりしていますが、基本的に『アッと驚くようなこと』は書いてありません。むしろこの手の本に書いてあるのは論理的に考えれば分かりそうな、ごく当たり前なことがほとんどです。

その原因は商業誌として出版する以上、ある程度最大公約数向けに書くため、多くのケースに当てはまる抽象的な内容を書く必要があること。そして著者がマーケッターの場合あまり詳しく書きすぎると自分への仕事の依頼が減ってしまうというポジショントーク的な問題です。

後者は置いておいたとしても前者は大多数に向けて発信する以上著者がいかに良心的であったとしても避けられない問題です。マーケティングの具体的な部分は個別の事業によって変わってきますし、今どの市場がブルーオーシャンかといった市場分析は時間とともに変化するため賞味期限が著しく短い情報です。

ではマーケティングについて学ぶことに意味はないのかというと私はそうは思いません。言われてみれば当たり前のことでも視点が違えば考えもしなかったということがあるのが人間ですし、個々の問題について論理的に解決できたとしても、それらをどのような順序で解決していけば効率が良いのかまで体系的にまとめるには時間と経験が必要です。

かのアップル社の共同設立者の一人、スティーブ・ジョブズの言葉に次のようなものがあります。

“人はそれを目で見るまで、自分は何が欲しいのかわからないものなのです”

これは市場需要について述べた言葉ですが、この場合も同様のことが言えるでしょう。すなわち言われてみれば当たり前なことでも、自分でそこに辿り着くのは案外難しいのです。

マーケティングについて学ぶことは先人たちが時間と知識と経験を積み上げて体系化した『ビジネスの当たり前』を自分の中に落とし込む最も効率の良い方法だと私は考えています。

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